新型コロナウイルスワクチン接種のスピードが上がりつつある。政府は職場などで接種する「職域接種」を21日から始める方針を示したが、企業も接種会場を自治体に提供したり、職場での接種を準備したりするなど、取り組みを加速している。
接種者が増えれば感染が抑制され、経済も回り始めるだけに、産業界も積極姿勢を示す。菅義偉首相は「職域接種が進めば自治体の負担が大きく軽減され、全体の接種が早まり、企業活動にとっても大きな意義がある」と協力を呼び掛ける。
新たに始まる職域接種は、従業員千人以上で専属の産業医がいる事業者が対象。例えば、パナソニックは21日から首都圏や大阪、福岡などで接種を始める。「社員および協力会社を対象に実施し、社員の家族や地域住民への接種は進ちょく状況を踏まえ、拡大を検討する」という。
観光業界では、藤田観光が従業員(約4500人)を対象に、まずホテル椿山荘東京で産業医との協力体制のもと、ワクチン(モデルナ)配布が予定される21日から接種を開始する。「早期のワクチン接種を進めることで、お客さまに安心して過ごしていただける環境、および従業員の安全な職場環境を整える」としている。
従業員が安心して接種ができるよう、(1)就業時間中に接種する場合(会場への移動時間も含む)、その時間は就労を免除(2)副反応による就労困難時の特別有給休暇の新設(3)同居家族の接種付き添い、または同居家族が副反応により看護が必要な場合への年休積み立て制度の適用拡大―にも取り組む。
NHKによると、兵庫県の城崎温泉では、旅館組合が加盟する旅館などの従業員およそ千人を対象に職域接種を行う。モデルナのワクチンを使い、地域の開業医が接種に協力する。会場は温泉街にある市の施設や旅館の中の大広間などを想定している。また、旅館を接種会場として利用してもらおうと名乗りを挙げる施設もある。
奈良市は宿泊施設従業員やバス・タクシーの運転手を優先して接種。4日付の日経新聞はその理由について、「広域から訪れる観光客と接する機会が多い点を考慮した」と報じている。
接種する人を支援しようとする施設も。プロスタイル旅館が運営する「PROSTYLE旅館 東京浅草」は、政府が設置する自衛隊大規模接種センター(東京・大手町)の利用者を対象にした特別支援プランを企画、7月末まで提供する。同館から会場までの送迎タクシー付き宿泊プランで、料金は8千円からだ。
職域接種は医師や会場の確保など課題もあるが、コロナ禍収束に向け、官民力を合わせて取り組みたい。
観光業界も職域接種に積極的な対応を示す(ホテル椿山荘東京)